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             ふるさと再発見地名は語る

   松木まつのきー  

「松木(まつのき)」は押切地区にある地名です。荒川にほど近い、集落の東方に広がる田圃ばかりの場所をいいます。

この地名については良くわからないことばかりです。というのは単純に文字通りの意味を追うことができないからです。加えて地名の由来を知る資料があまりに少ないからです。また地名がつけられた当時なら誰もがその意味を理解できたでしょうが、現在では土地の様子が大きく変わっていることも考えられ、いっそう由緒を尋ねることを難しくしています。

多少話は脇に逸れますが、地名の由来を知るということは地名の付けられた当時の人々の生活を知るということでもあると思います。特に日本人の生業自体が、水田稲作という米造りを基本とする農業を中心に歴史を創ってきただけに、土地との結びつきは深く強いものがあります。氏族、集団をいう姓名・苗字にも「田」の文字が使われます。これは苗字に地名が多く採られたためのようです。また、中世武士の働きを云う「一所懸命」の言葉は豊かな土地を獲得し守ることから起こっています。このような土地に対する思いが多数の地名に付けられていると思います。

「松」は常に緑の樹です。緑の少ない冬でも青々として強く生命を感じさせます。また長寿を祝う古木や大木となって神霊さえ宿る樹でもあります。桜の華やぎや、杉の森厳さはありませんが、庭木に育む親しみがあります。

「松木」の地名の場所は明治時代以前も水田であったようです。単純に田の傍らに松が立っていたと考えることもできますが、松と田の結びつきが説明できません。そこで、生業の視点から松と田の結びつきをみると今は失われてしまった行事との関係を考えることも可能です。

先述のように松は生命を強く意識されていた樹です。松飾りなど多くの民俗行事で使用されています。稲作との関係をみると「御田植神事」という大切な祭礼に使われる樹でもあります。御田植神事は文字通り豊作を祈る御祝行事の一つです。具体的には「祈年祭」に松葉を早苗に見たて、田圃や境内で神官が田植の仕草をします。雪の多い地方では植えられた松葉が生々と育つ早苗のように見え、その年の稲の成長が良く、多くの稔りが約束されると考えられたようです。現在、埼玉県内では、4月18日に秩父神社などで行われています。

このような生活に密着した行事は規模の大小はあれ、どこの村落でも基本的に行われていたと考えられます。押切の鎮守社は八幡社ですが、今のところ御田植神事を行っていたことを示す資料はみつかっていません。松木の田圃は大切な神事を行う選ばれた場所であったかもしれません。


松木付近近景写真
松木付近近景写真

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