読書室    

             ふるさと再発見地名は語る

   日向ひなたー  

晴天の日には日向ぼっこをしたくなるのは人間だけでなく身近な動物たちに良くみることができます。日向ぼっこからは陽光のあふれる場所やそこで過ごす楽しい時を思い出します。

この地名は小江川地区の丘陵地にあります。溜池を挟んで南向きの西斜面が広がり、北・東面は山林となっている陽当りの良い地形です。「日向」は「日当・日方・日南・陽日」などと共に「ヒナタ」と読まれます。また旧国名の「日向国」(宮崎県)は「ヒュウガ」と読みますが、古名は「ヒムカイ」で、陽当たりの良い所、暖かい所との意味を持っています。ヒナタは言葉の意味と自然条件が良く合った場所に使われることの多い地名のひとつです。

旧江南町には日向地名は小江川だけのようですが、自然条件に由来することから、陽当りの良い場所を云うとき全国に分布していることが判ります。それも平野部より山間丘陵地に多くみられます。この様な場所では、北風を防ぐため陽光の日には上着を取るくらい暖まることがあります。古来から冬期の食料を確保することは難しく、そのために払われた知恵と労力は生活の大半を占めていた時代がつい最近までありました。冬でも収穫できる作物と条件の良い土地をいつも求めていました。地形が緩やかな斜面であれば、住まいに選ばれることになります。県西部の山間・丘陵地にこのような集落をみることができます。もっとも住まいを決める時には水利・交通などの要素も重要ですが、陽当り良否を今も云うくらいですから、昔も尊重された基本的な条件でした。このような生活に根ざした事物を云う言葉は、古い時代からあると考えられる理由でもあります。

天照大神に代表される太陽信仰は原始から生れています。縄文時代から米造りを始める弥生時代にはこの傾向がいっそう強まっていったと考えられています。現在でも鎮守様といわれる神社の祭神に加えられている場合が多いのは、農業の神だけでなく、生活の全般に関りが深かったからでしょう。人の力がとても及ばないと考えられるとき、神の力を考え出したり、自然の中に感じ取ったりするようです。拝殿に置かれた鏡は、本来太陽の分身と考えられ、その力と姿を写し現わすものです。邪馬台国の卑弥呼が中国から300枚の鏡を贈られたことも、古墳から鏡が頻繁に出土することも太陽の力を借りようとしたものです。

日の力を得て厳しい冬を耐えることは、太陽の復活を祀る祭りや陽溜りの場所を捜し出す知恵や努力の様子が、日向の場所に立つと陽光の温もりとなり伝わってくるようです。


日向付近近景写真
日向付近近景写真

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